===== 『天災から日本史を読みなおす』 =====
~~ 先人に学ぶ防災 ~~
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◆ 『天災から日本史を読みなおす』 ~ 先人に学ぶ防災 ~ …………磯田道史 著 2018/8/25日第19版 760円 <中央公論新社> |
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豊臣政権を揺るがした二度の大震災、1707年の宝永地震が招いた富士山噴火、佐賀藩を「軍事大国」に変えた台風、森繁久弥が遭遇した大津波 ―― 。資料に残された「災い」の記録をひもとくと、「もう一つの日本史」が見えてくる。 富士山の火山灰はどれほど降るのか、土砂崩れを知らせる「臭い」、そして津波から助かるための鉄則とは。 東日本大震災に津波常習地に移住した著者が伝える、災害から命を守る先人の知恵。 |
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~~~ 目 次 ~~~ まえがき ―― イタリアの歴史哲学者を襲った大地震 第1章 秀吉と2つの地震 1.天正地震と戦国武将 先人たちは地震発生時刻をどう測ったか 山内一豊の愛娘の死 娘の死後、地震孤児を慈しむ 家康の生き残り作戦 地震に救われた家康 若狭湾を襲った津波 2.伏見地震が終わらせた秀吉の天下 伏見城崩壊、多くの美女が圧死 伏見城の耐震化 上杉家・菊姫の怪力 大仏に弓引く秀吉 武将たちの本心、地震で露呈 豊臣政権崩壊の引き金に 第2章 宝栄地震が招いた津波と富士山噴火 1.1707の富士山噴火に学ぶ 三保の松原への津波 江戸の庶民が記録した半月間の降灰 地震と富士山噴火の連動性 2.「岡本元朝日記」が伝える実態 静岡を襲った宝永津波 桶の水が知らせた江戸の揺れ 地震が富士山噴火の引き金に? 暗くなるほど降った火山灰 震動は4日間、火山灰は12日間 3.高知種崎で被災した武士の証言 寺田寅彦の原風景の地 「山に入れ」の声で高台へ避難 「孝」の重さ ―― 幼い娘を捨て、老母を助ける 低体温症の危険と投げない心 4.全国を襲った宝永津波 大阪は常に津波に襲われてきた 大阪にきた5~6メートルの津波 防潮堤を造った藩主のリーダーシップ 5.南海トラフはいつ動くのか 大地震後に課せられた宿題 400年前の僧侶が残した防災情報 第3章 土砂崩れ・高潮と日本人 1.土砂崩れから逃れるために 伊豆神津島、土砂崩れの前兆 安政地震後の「山崩れ」 「蛇落地」に建てられた団地 2.高潮から逃れる江戸の知恵 江戸を一変させた台風 台風は藩をも吹き飛ばした 哀しき古文書 ―― 高潮に襲われ、子を突き流す 350年受け継がれる「命山」 陰陽師・阿倍晴明が津波を封じた塚 大都市の高潮被害は過去のものではない 第4章 災害が変えた幕末史 1.「軍事大国」佐賀藩を生んだシーボルト台風 佐賀県を襲った「子の年の台風」 史上最悪、5メートル超の高潮 巨大台風が招いた藩主交代 少年藩主の財政再建 西洋文明への目覚め 「捨て足軽」という自爆部隊 2.文政京都地震の教訓 江戸時代の医師が残した地震知識 文政京都地震を読んだ和歌 尋常でない加速 地震直後の仁孝天皇と三種の神器 3.忍者で防災 甲賀忍者が伝える「寅年大地震」 伊賀上野地震で各地のため池が決壊 ため池にも耐震診断が必要 2人の儒者の教訓 第5章 津波から生き延びる知恵 1.母が生き延びた徳島の津波 私が防災史を研究する理由 「高台へ」 ―― 曽祖父・平吉の決断 一泊でも避難場所を確認すること 赤ちゃんのため、抱っこ紐を枕元に 五歳児は親子で避難訓練を 極限状態での優しさ 津波時の川は「三途の川」と心得よ 2.地震の前兆をとらえよ 井戸水が枯れたら津波が来る 大地震の前兆をとらえる言い伝え ある満州帰りの男の被災 引き波が来る前に脱出図れ 第6章 東日本大震災の教訓 1.南三陸町を歩いてわかったこと 神社はなぜ流されなかったのか 津波に弱いマツ林 津波の砂泥に学ぼう 「遠地津波」は何が危険か 2.大船渡小に学ぶ チリ地震を知る校長の決断 危険の直感こそが生存への道標 「自分の命は自分で守る」 3.村を救った、ある村長の記録 昭和8年三陸大津波という地獄をみて 消防士は「一に避難、二に救助」 自然に逆らわぬ防災工事を あとがき ―― 古人の経験・叡智を生かそう |
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人間は現代を生きるために過去をみる。すべて歴史は現代人が現代の目で過去をみて書いた現代の反映物だから、すべて歴史は現代史の一部といえる。
歴史はその時代の精神を表現したもの、生きる人間のものではないか。
クローチェの思想に学んだ私は不況のどん底の日本で、幕末の激動を生きた武士の暮らしを眺め、『武士の家計簿』という本を書いた。それから8年がたって、震災がおき、天災を目のあたりにして、我々の歴史の見方や価値観も変わりつつある。
近代化以前の社会は自然環境の影響を大きくうけた。農業が中心の自然経済なのだから当然である。
震災後の歴史学、いや科学全体は自然に対する人間の小ささを謙虚に自覚せねばならぬであろう。
天災を勘定に入れて、日本史を読みなおす作業が必要とされているのではないだろうか。人間の力を過信せず、自然の力を考えに入れた時、我々の前に新しい視界が開けてくる。あの震災で我々はあまりにも大きなものを失った。
喪失はつらい。しかし、失うつらさの中から未来の光を生み出さねばと思う。過去から我々が生きるための光を見いだしたい。クローチェのように。
……………<はじめに から抜粋>
「歴史学というのは、なにも政治史だけの狭いものではない。動物の歴史だってあるし、トイレの歴史だってある。自然の歴史もある。地震や噴火などの災害の歴史は現代にもつながる生きた歴史である」。
著者の恩師、水本邦彦先生の「日本の近世社会」という名前の講義の言葉である。
<略>
これから備えるべき自然の危機は三つある。
第1に、地震津波などの地学的危機。
第2に、地球温暖化にともなって台風や集中豪雨が激化することによる風水害・高潮・土砂崩れなどの気象的危機。
そして第3に、世界の人的交流の進展やテロの可能性が高まり、抗生物質耐性菌・インフルエンザ・出血熱などの感染症学的危機も高まってきている。
<略>
また現代社会では、防犯、テロや戦争の抑止、予防外交、経済危機の回避なども重要である。古人の経験や叡智はこれからも有効であろう。機会があれば、広い意味での「リスク・コントロールの歴史学」を叙述してみたいと思っている。
東日本大震災後、歴史地震についての本が数多く出版された。多くは理系の研究者によって書かれ、地震や津波の実態を明らかにするもので、大変参考になる。一方、本書は、地震や津波ではなく、人間を主人公として書かれた防災史の書物である。防災の知恵を先人に学ぶとともに、災害とつきあい、災害によって変化していく人間の歴史を読みとっていただけたなら、幸いである。-
2014年9月
……………<おわりに から抜粋>